簿記の諸口
諸口って何?簿記の初心者がつまずく諸口を徹底解説!
簿記3級の勉強をする中で、多くの人がつまずく「諸口(しょくち)」。諸口の考え方が理解できていないと、仕訳作成から転記をする際に間違いが発生してしまい、簿記検定で正しい答えを導くことができません。実務でも諸口は出てくるため、避けては通れないものなのです。本記事では、簿記3級で学ぶ諸口とは何かというところから、諸口の考え方、正しく諸口を使う方法まで紹介します。これを読めば、諸口への理解をさらに深められることでしょう。
1. あなただけではありません!「諸口」でつまずく人が多数
簿記で「諸口」とは、仕訳(しわけ)の際に相手方勘定が二つ以上の勘定科目にわたっていることを指します。つまり、1回の取引で借方か貸方どちらかのお金の用途が2つ以上の用途に分かれるときに諸口という単語が登場するというのが基本の考え方です。一口に「諸口が分からない」といっても、様々な状態があります。例えば、そもそも諸口という概念が理解できていない人や、記帳での諸口の使い方が分からない人などです。中には、考え方は分かるものの、実務で会計ソフトを使う際に出てくる諸口だけは苦手だといった人もいます。
このように、程度は様々ですが、諸口という言葉の意味や使い方が分からないという人はかなりの数にのぼります。諸口への苦手意識を克服するためには、自分が諸口の何を苦手としているのか把握することが重要です。
2. そもそも簿記とは何なのか
諸口の前に、そもそも簿記とは何なのか、改めて確認しておきましょう。諸口という考え方が必要な理由は、今勉強しているものが「家計簿のつけ方」ではなく「簿記」であるということに関係します。家計簿は家計のお金の出入りを管理するためのもので、貯蓄や節約などが目的です。一方、簿記は企業の経営状況を把握するためのもので、収益や費用、資産や負債を管理することを目的としています。これらを複式簿記で記録しておくと、企業にどのようなお金がどれだけあるのか、それはどこから来て次はどうなったのかといったお金の流れが一目で分かります。お金の流れが分かれば、企業そのものの状態を経済的な面から全て明らかにすることができるといっても過言ではありません。
簿記で用いる勘定科目は、家計簿での諸経費と比べて複雑であることが特徴です。諸口を使うケースではそれが複数登場するので、仕訳時はより複雑な内容となる場合が多くなります。そのため、少しでも分かりやすくするため、諸口を利用してまとめておくのです。
3. 簿記で諸口が必要な理由
簿記において諸口が必要な理由を、もっと具体的な例を挙げて確認してみましょう。簿記では、取引を仕訳し、その仕訳から帳簿や決算書を作成します。諸口が使われるのは、仕訳を帳簿に転記するときです。企業で取引が発生する場合、1つの取引に複数の項目が存在するというケースが日常的に発生します。例えば、借入金の元本と利息を現金でまとめて銀行に支払ったというケースがあります。この場合も、現金の相手勘定科目は借入金と支払利息の2つです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
借入金 | 99,000 | 諸口 | 99,000 |
支払利息 | 1,000 | 諸口 | 1,000 |
諸口 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
このように1つの取引に複数の項目が存在する場合、相手方の勘定科目を「諸口」とすることで、取引に内訳があることを簡単に表すことができます。
Ⅰ. 簿記の単純仕訳と複合仕訳
単純仕訳とは、1つの取引に対して借方と貸方が1つずつある(1対1)の取引です。1取引は1行で、借方・貸方の勘定科目も1つずつ。全ての基本となるシンプルな記帳方法です。一方、複合仕訳は、1つの取引に対して借方もしくは貸方が複数ある(1対多、多対1、多対多)取引のことを指します。どちらかの勘定科目が複数行にまたがったり、あるいは借方と貸方のバランスを合わせるために諸口を使用したりします。少し複雑になりますが、相手方との対応科目が分かりやすいため、こちらの方が読みやすいという人もいます。
例として、売掛金50,000円から振込手数料200円を差し引いた金額が口座に振り込まれるケースを複合仕訳で考えてみましょう。諸口を使わないケースだと、借方は預金49,800円と支払手数料200円の2行です。貸方は売掛金50,000円を先頭行にのみ書くか、売掛金49,800円・売掛金200円と2行に分けて記入します。
a. 記載例1
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 49,800 | 売掛金 | 50,000 |
支払手数料 | 200 |
現金預金(資産)が49,800円増加し、支払手数料(費用)が200円増加し、売掛金(資産)が50,000円減少します。
b. 記載例2
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 49,800 | 売掛金 | 49,800 |
支払手数料 | 200 | 売掛金 | 200 |
現金預金(資産)が49,800円増加し、売掛金(資産)が49,800円減少します。また、支払手数料(費用)が200円増加し、売掛金(資産)が200円減少します。
c. 記載例3
対して、諸口を使う場合、まず貸方に売掛金50,000円、相手方となる借方に諸口50,000円と記入します。また預金49,800円と支払手数料200円をそれぞれ借方に記入して、相手方となる貸方に諸口50,000円と記入します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 49,800 | 諸口 | 49,800 |
支払手数料 | 200 | 諸口 | 200 |
諸口 | 50,000 | 売掛金 | 50,000 |
現金預金(資産)が49,800円増加し、相手勘定に「諸口」49,800円を記載します。同様に支払手数料(費用)が200円増加し、相手勘定に「諸口」200円を記載します。一方、売掛金(資産)が50,000円減少し、相手勘定に「諸口」50,000円を記載します。
Ⅱ. 実務では簿記の「複合仕訳」は避けて通れない
企業の取引では、簿記の学習時より複雑な仕訳が発生します。請求書1枚の中に多くの項目が記載され、支払いの際はその合計額をまとめて支払うという方法をとるためです。例えば給与や賞与は、給与から源泉所得税・住民税・社会保険料などを差し引いたうえで支払いを行っています。税理士や弁護士などの士業へ報酬を支払う際も、「源泉所得税」という概念が必要です。これは、あらかじめ報酬から源泉所得税を差し引いておき、残った金額を報酬として支払う方法です。ほかにも、借入金の返済時は元本と利息をまとめて支払ったり、売上金の入金時は振込手数料が差し引かれたりといったことが発生します。
いずれの場合も複合仕訳の考え方が必要となります。このように、実務では複合仕訳、ひいては諸口は避けて通れないものなのです。
4. 諸口を使った仕訳の流れ
ここからは、仕訳作成から転記までの実際の流れを紹介します。まずは全体像の確認です。最初に、取引の内容を把握し、仕訳を作成します。取引が複雑な場合(1対1以外)は、さらに諸口を使った仕訳も作成しておきます。その次が、勘定科目ごとに把握するための、総勘定元帳への転記です。その際、1対1の単純仕訳以外は、相手科目に「諸口」と記載します。この流れを踏まえたうえで、仕訳と転記の方法を詳しく見ていきましょう。
Ⅰ. 取引から仕訳を作成する
事例として、次のような取引を考えます。「商品を140,000円で売り、代金は現金で100,000円、受取手形で40,000円受け取った」というものです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 100,000 | 諸口 | 100,000 |
受取手形 | 40,000 | 諸口 | 40,000 |
諸口 | 140,000 | 売上 | 140,000 |
まず、借方に現金(100,000円)と受取手形(40,000円)貸方に諸口(100,000円)(40,000円)と記載します。次に貸方に売上(140,000円)借方に諸口(140,000円)を記載します。借方と貸方の合計が合っているかどうか、忘れずに確認しましょう。ここで作成した仕訳が、転記の大枠となります。
Ⅱ. 勘定科目ごとにまとめるため総勘定元帳へ転記する
ここから、いよいよ諸口の登場です。現在、借方勘定には現金と受取手形の2つが存在します。複数存在しているため、この場合は現金勘定と受取手形勘定への転記の際に「諸口」を記入します。次に、売上勘定への転記に移りますが、今回の相手勘定は「諸口」です。
このように1つ1つの手順を確実にこなしていくだけで、苦手だった諸口も実はそう難しくないと思える人もいることでしょう。実際、諸口という言葉には「まとめて書いています」程度の意味しかないので、深く考える必要はありません。複数の勘定科目があることで相手方の対応する箇所が空欄となってしまう時に、複数行にまたがって書く代わりに「諸口」と記載しているのです。
5. 簿記3級「諸口」でつまずかないために
簿記3級では、基本的な簿記の知識を習得することを目的としています。仕訳、転記、試算表作成ができるレベルが求められているため、仕訳や転記で必要な諸口の理解を深めることは必要不可欠です。大手資格試験予備校の簿記の通信・通学講座なら、1人では分からなかったことも解決できるので、資格取得の一番の近道となります。「日商簿記3級独学教室」ではこうした講座の資料請求も可能です。