簿記と就職
簿記ができると就職に有利?資格を活かせるのはどんな仕事?
簿記は、就職や仕事のスキルアップに活かしやすい資格として、よく名前が挙がる資格の1つです。しかし、簿記には様々な種類があり、取得する資格によって有効度が異なります。そこでこの記事では、何級以上の簿記資格を持っていると有利なのか、どういった仕事なら資格を活かせるのかなどについて解説していきます。
1. 実は種類が多い簿記の資格
簿記という資格には様々な種類があり、資格の試験を行う主催者によって、「日商簿記」「全商簿記」「全経簿記」の3つに分類されます。
Ⅰ. 日商簿記
日商簿記は、日本商工会議所が主催する簿記の資格試験です。正式名称を「日商簿記検定試験」といい、3つの簿記資格のなかでも特に知名度が高いのが特徴です。大学生や社会人など、一般向けの資格とされており、受験者数も一番多い傾向が見られます。また、比較的難易度が高く、合格率も低めです。簿記と言えば日商簿記を指す場合も多いので、就職や仕事のスキルアップに活かすなら、日商簿記の取得を目指すといいでしょう。
日商簿記には初級・3級・2級・1級という4つの区分があり、1級が最も高い難易度となっています。各級とも、合格基準となる正答率は70%以上です。試験料は初級が2,160円、3級が2,850円、2級が4,720円、1級が7,850円となっています。3級と2級の試験は2月・6月・11月の年3回実施され、1級の試験は6月・11月の年2回実施されます。
また、日商簿記1級を取得することで、税理士試験の受験資格が得られます。
Ⅱ. 全商簿記
全商簿記は、公益財団法人全国商業高等学校協会が主催する資格試験です。正式名称は「簿記実務検定試験」で、主に高校生を対象にしているのが特徴です。受験者のほとんどが商業高校の高校生で、その理由としては、センター試験の受験科目に簿記があることが挙げられます。加えて、大学や短大によっては、全商簿記1級の取得を推薦入試の基準にしているケースがあるため、毎年多くの受験生が資格の取得を目指しています。高校生を主な対象としていることもあり、全商簿記の難易度は日商簿記よりも低めです。
全商簿記には3級・2級・1級(会計/原価計算)という3つの区分があり、1級が最高難易度となっています。また、1級は科目が会計と原価計算に分かれていて、1級を取得するには両方の科目に合格しなければいけません。各級とも、合格基準となる正答率は70%以上で、試験料は全て1,300円です。ただし、1級は科目ごとにそれぞれ試験料を支払わなければならないので、1級を取得するには最低でも2回分の試験料である2,600円が必要です。試験は毎年1月と6月、年2回実施されます。
Ⅲ. 全経簿記
全経簿記は、公益社団法人全国経理教育協会が主催する資格試験です。正式名称を「簿記能力検定試験」といい、企業で経理事務を担当するうえで有効な資格です。主に、経理事務を志望する専門学校生などが取得を目指す傾向が見られます。また、全経簿記の上級を取得することで、税理士試験の受験資格が得られるという点も見逃せないメリットだといえるでしょう。試験の難易度は日商簿記より低く、全商簿記よりは高いとされています。
全経簿記には、基礎・3級・2級(商業簿記/工業簿記)、さらに1級(商業簿記・会計学/原価計算・工業簿記)・上級(商業簿記・会計学/原価計算・工業簿記)などの分類があります。上級が最高難易度です。基礎・3級・2級・1級の合格基準は、正答率70%以上となっています。上級の場合、合格には各科目40%以上の正答率が必要で、全4科目の合計得点280点以上が求められます。試験料は基礎が1,200円、3級が1,400円、2級が1,700円です。さらに、1級は2,200円、上級は7,500円となっています。試験は2月・5月・7月・11月の年4回実施され、上級のみ2月・7月の年2回実施となります。
2. どの資格を取ればいい?
「日商簿記」「全商簿記」「全経簿記」という3つの資格には、それぞれメリットがあります。しかし、知名度やブランド力を考えると、就職や仕事のスキルアップに活かしたい場合、日商簿記を取得するのがおすすめです。
3. 日商簿記3級でも就職に有利?
日商簿記3級で学ぶのは、主に商業簿記に関する知識とスキルです。商業簿記とは、商品の仕入れから販売にかけての流れを記録・計算し、決算書を作成するためのものです。資格を取得することで、企業が行う一連の活動が理解できます。また、経理や確定申告に関する用語・ルール・仕組みなどを知ることも可能です。具体的には、日商簿記3級を取得することで、個人事業主・商店・小規模企業レベルの経理を担当することができるようになります。そのため、資格を持っておけば、小規模の企業などに就職する際に有利に働くことがあるでしょう。
一方で、規模の大きい企業への就職の場合は、2級以上の資格取得者との競争になりやすく、就職活動において有利にはなりません。また、日商簿記3級以上を条件とした募集では、パートや派遣社員といった待遇が多い傾向が見られます。
4. 正社員を目指すなら日商簿記2級以上は必要
正社員としての就職を目指すのであれば、日商簿記2級以上の取得が望ましいといえます。日商簿記2級の資格を取るには、3級よりも高度な商業簿記の知識として、本支店会計・連結会計などについての仕組みを習得しなければいけません。さらに、2級では新たに工業簿記が試験範囲に入るため、製造販売に関する記録・計算なども担当できるようになります。このように、日商簿記2級では経理や会計について、より幅広い知識とスキルが求められます。そして、その分だけ対応できる企業の規模が大きくなるのが特徴です。
経理が複雑化しやすい中・大企業での正社員としての就職を希望する場合は、日商簿記2級以上の取得がほぼ必須だといえるでしょう。日商簿記1級取得者は人数が少ないので、就職活動においては、日商簿記2級でも充分有効です。
5. 日商簿記1級を活かすには実務経験が不可欠
日商簿記1級では、3級・2級で習得した商業簿記と工業簿記の知識に加え、会計学と原価計算が試験範囲になります。会計や財務に関して、会計基準・財務諸表等規則・会社法などといった法律を踏まえたうえでの解答が求められます。日商簿記1級取得者の知識とスキルは、経営的な視点に基づく管理・分析を行えるレベルであり、経営者・公認会計士・顧問税理士などとも同等のやり取りが可能です。ただし、日商簿記1級の持ち味を充分に発揮するためには、ある程度の実務経験を積むのが賢明です。豊富な知識と実際の経験を組み合わせて活かすことで、企業の戦力になる人材であることをアピールしやすくなります。例えば、3級や2級を取得して就職した後、しばらく実務経験を積んだうえで1級に挑戦するというような形であれば、資格を効率的に活用できるでしょう。
6. 未経験でも資格があれば採用という可能性
人手不足の企業であれば、会計・経理・財務などの担当者を募集するような場合でも、未経験者を採用する可能性があります。そういったケースでは、「実務経験は無いものの、知識は充分に習得している」ということをアピールするため、日商簿記3級・2級を取得しておくといいでしょう。同じ未経験者でも、日商簿記の資格を持っている人と持っていない人を比較した場合、資格取得者のほうが就職活動上有利だと言えます。
7. 有利にならずとも有効に使える資格
簿記の資格には複数の種類がありますが、就職に活かすなら、知名度の高い日商簿記がおすすめです。ただし、日商簿記3級は取得者が多いため、必ずしも有利に働くとは言い切れません。しかし、簿記の知識があることの証明にはなるので、経理や会計に関連した職種を選べば、日商簿記3級でも効果を発揮するでしょう。経理・会計に関する仕事に興味がある人は、まずは日商簿記3級の取得を目指してみてはいかがでしょうか。